こんにちは。黒田です。
「良いものを直しながら永く着る」「仕立て服を嗜む美しさ」これらのフレーズを、わたしは一年前のブログに書いていたな〜と、本を読み進める中で、思い返し、そして考え込んだ。
考え込んだ理由は、「直しを施しながら服を永く着る」と言う発想は、仕立屋さんとして当然の考えであるかのように思っていたからだ。前回の洋服研究日記ブログで書いた「今年の新作」があまりにも当然だったのと同じように、「直しながら着るのが良い事」と感じる価値観もまた当然すぎた。その考え方がどこから生まれたかとか、いつからかとか、そういえば考えていなかった事に気がついた。「良いもの」と「永く愛用する事」はセットとして当然の価値観としてわたしの中に宿っていた。でもやはり、今ある当然には、今までの歴史があるのだ。
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服装と階級の関係性の中では、過去の多くの(ほとんどの)時代において「服の破れ」「服に穴が空いている」状態の服は「貧しさ」の象徴であったという事が、今読んでいる本に記されている。
服を‘リメイク’したり‘お直し’する行為に関しては、人によって好まれたり好まれなかったりされながらも、やはり服に空いた「穴」「破れ」それらを「直した跡」というものから視覚的に読み取られるメッセージは、ほとんどの場合‘貧しさ’であった。
ところが、第二次世界大戦中に英国の商務省が行なった、あるキャンペーンによって、服の穴、破れ、そして直した跡が象徴するイメージに変化がもたらされた。そのキャンペーンとは、‘Make do and Mend’キャンペーン。‘あるものを直して着よう’というこのキャンペーンの謳い文句は、「綺麗につぎ当て(お直し)された洋服は、今日においては誇りに思うべきものであり、もはや‘貧しさ’の象徴ではない」というものであった。
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洋服の穴や破れに付随するイメージの変革を試みる国を挙げたキャンペーンもあった事に、なるほどと頷きながら読んだ。
これについて、ペコラ銀座店主とも会話をしたら、「チャールズ皇太子とかチャールズパッチとも関係あるのかな〜」なんて話にもなった。
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チャールズ皇太子は洋服も靴もメンテナンスしながら永く愛用していることを良く知られている。今のわたしにはそれくらいの知識しかなくて、今ここにチャールス皇太子の服装と‘Make do and Mend’キャンペーンの関係については分からない状態だから何も書けない。ただ、ひとつ発見した事があって、それは、チャールス皇太子の「つぎ当て」「お直し」された洋服に対する世間の意見は賛否両論なんだな〜と言う事。そして何だかそれがとても面白く感じられた。
ある人は「皇太子ともあろう人物が、つぎ当てなんてしなくても服なんていくらでも新調できるでしょう。お金に困っている訳ないんだから」と評し、ある人は「永くものを愛用する皇太子の姿勢はなんとも美しい」と賞賛する。またある人は「お直し自体は否定しないけど、貧しさを連想させる」と言い、ある人は「直すのは良いけど、皇太子のこの直しはなんだ、ひどいつぎ当てだな。服の穴は繊維を埋め込むかけはぎすべきでしょう」と言う。
チャールス皇太子の「つぎ当て」「お直し」を批評する人々の発言からは、未だに「服の穴」には貧しさが連想される事が根強く残っていることも垣間見れるし、「お直し」が美しいと言う評価が浸透していることもうかがえる。また、お直しそのものの技術、お直しの方法や仕上がりの美しさについて気になる人がいる事もすごく面白くて良いなと思った。
ちなみにペコラ銀座店主的には、チャールズ皇太子の「つぎ当て」スタイルは「商売的には好きじゃないけれど、個人的趣味としては凄く好き。現に自分の服を見てみると、ほとんど全部そうだから。」と、紺屋の白袴な自分自身を笑いながら語っていた。
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破れた服や服に空いた穴が貧しさを象徴していた歴史も、戦時下において「あるものを永く着よう、直そう」と国を挙げて促すキャンペーンのどちらにも納得する。そして、このような事実に加え、歴史の中での様々な要素が絡む中であらゆる考え方や価値観が構築されてきて、そんな中での今の自分の価値観が形成されているんだなと改めて認識する。
それから考える。
冒頭に綴った、「良いものを直しながら永く着る」「仕立て服を嗜む美しさ」というこれらの価値観。やはり、仕立屋さんとしては大切にしていきたい価値観である。と同時に、これらの価値観に見合うために、仕立屋さんとして果たすべき当然の責任がある。その責任とは、「良い洋服を作ること」である。
「直しながらずっと永く着る」ためには、そもそも「永く着ることの出来る良い洋服である」事が必要で、そのような洋服を仕立屋さんは作らなければならない。
ペコラ銀座店主、佐藤英明はいつも言っている。「着れないものは絶対に作っちゃダメなんだよ。ちゃんと着れる良いものを作らなくちゃいけない。裁断から縫製から、プレスから、フィニッシュ、ボタン付け、仮縫い、納品、お客様との対話、その全てが大切で、その一つ一つが合わさって初めて良いものになる。どれ一つとして手を抜いちゃいけない。」と。そして「直しながら永く着るじゃん。そしたら愛着が湧いてくるの。うちで仕立てる洋服が、その人にとって愛着の湧くものになっていってほしい。」と。
ペコラ銀座の洋服づくり。店主、佐藤英明の想い。
忘れず心にとどめて、洋服の学びを深めていきたい。
Memo…直しながら永く着れる、良い服を作ること。仕立屋さんの責任。