落合正勝先生のご冥福をお祈りして。
佐藤英明
去る8月7日、落合正勝先生が天国に召されました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
私が落合先生に初めてお目にかかったのは8年前、フィレンツェでのピッティコレクション会場でした。当時私のイタリア人の友人がブリオーニで働いており、ピッティのブリオーニのブースで彼に紹介されたのが初対面です。初めの印象はちょっと恐そうな方でしたが、それからお付き合いさせていただくうちに根はとても優しい方だと気付きました。
初対面の頃、ちょうど落合先生はイタリアのオーダーの洋服に興味を持たれた時期で、私にもご注文をいただくようになりました。落合先生はお洋服を仕立てるときに特別な注文はされず私に任せて下さる方でしたが、好奇心旺盛な方でいろいろと質問をされたものです。私自身は特別不思議と思わないような事にも細かく突っ込んで聞かれるので、こちらも改めて考え、逆に勉強になったこともたくさんあります。
落合先生の優しい人柄を実感したエピソードがあります。
お付き合いするようになった初めの頃、プリンツィヴァリ氏と共にご自宅に招待していただいた折、そのころ先生が18年来飼っておられた愛猫をとても慈しんでおいでになったその姿が印象的で、私の先生に対する、ちょっと恐いイメージが払拭されたのでした。
落合先生は私が今まで会った人たちの中で本当に洋服が好きな人だと思います。
先生が洋服を見る、洋服の話をするとき、まるで子供が自分の大好きなものや欲しいものを見るように、目を輝かせていらっしゃいました。きっとそうした洋服への思いが、沢山の洋服愛好者たちに好感を持たれ、支持されつづけたのだと思います。
最近の2年間ほどは先生もとてもお忙しく、私も仕事に追われてまったくお会いする機会を持てず、お体の調子が芳しくないと伺っていながらもそれまでのご厚情に改めて御礼をすることも叶わないままに、先生が天国に行かれたことが非常に悔やまれます。
10年前、私がミラノのペコラの元から日本に帰ってきた頃、日本では自分が身に付けたイタリアの伝統的な洋服作りの技術や知識が理解されないのではないかと自信を失いかけてイタリアへ戻ろうかと考えていた矢先に、メンズEXの落合先生の記事を読んで、ここ日本にも自分の基盤となったイタリアの服作りを理解してくれる人がいたのだと知り、踏み止まってこのまま仕立て屋を続けようと決心しました。
私が今日本で仕立て屋を続けているのは落合先生の記事との出会いがあったからです。
落合先生には非常に感謝しております。そして心からご冥福をお祈りいたします。